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thunderbolt!

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さよなら

りきちゃんとすごした日々 その3



S センターでは、面会時間が遅くまで設定されていることから、パパも平日会いに行くことが出来るようになった。
休日にもなると、かなり長い時間をりきちゃんと一緒に過ごせることが出来るようになった。
単純にパパはりきちゃんと過ごす時間が増えて喜んでいた。


Sセンターでは、呼吸器のパイプが長いためにしばしばりきちゃんを抱っこすることが出来た。これは非常にうれしかった。
パパも腕が痛くなるまで思う存分抱っこできた。


りきちゃんと過ごす時間が長くなるにつれ思うのは、パパとママはりきちゃんのことを全然知らない、ということだった。
吸引のときの辛そうな姿、寝ている姿、起きた瞬間、機嫌のいい時のみょうにかわいい顔、
悪い時の不機嫌そうな顔、顔面麻痺の顔で必死に泣く姿、お腹いっぱいになって眠たくなっている顔、顔に張られたテープが痒くて仕方ない様子、暴れている様子などなど・・・

今までほとんど知らなかったりきちゃんの顔がいろいろ見れた。
一緒に過ごせるとは、なんと幸せなことか。


りきちゃんは、本当に日に日に表情を変えていった。
S病院にいた頃からこうなのか、面会時間が増えてパパとママと過ごす時間が増えたからこうなったのか、それはわからないが、表情が豊かになった。


入院して2週間ほどたったところで、検査の結果が出た。むくみが激しく、また刺激に弱いので気道がつぶれてしまっているので気管切開をしましょう、とのこと。
手術は11月末に行うことになった。




大学病院に遺伝外来というのがあったので、ここの先生にCHARGEの遺伝のことについて相談に行った。
CHARGEのことについてはまだ研究の歴史も浅く、分かっていないことが多いですと。
やっぱり、ようするに、突然変異なのだ。

神に問いたい。
なぜ、りきちゃんは苦しまないといけないのか、と。



だんだん、気管切開の日が近づいてきた。これでやっと退院できる・・・
ところが、なんか風邪を引いてしまったようで、手術が出来なくなってしまった。

とかなんとかいっているうちに風邪のほうは良くなってきたのだが、今度はなんと心臓が弱ってしまった。
原因は分からんが、とにかく心不全をおこし、僧帽弁からの逆流が増えて心臓に負担がかかっている状態らしい。
とりあえず点滴で強心剤やら利尿剤やらなんやらをいれることで、復帰したそうだが…

気管切開はどんどん延期になってしまった。



そして、りきちゃん生まれて2度目のクリスマスがやってきた。
サンタさんが来て、りきちゃんにプレゼントをくれた。
木製のクルマのオモチャだった。
りきちゃんに触らせると、気に入ったのか、握っていた。そういえば木の感触って初めてかもしれない。
やっぱりさわり心地がいいのかな。りきちゃんといっしょにブーブーってあそんだ。


でも、カウントダウンは、もう始まっていたのだった。


12/28は、ママは用事があったので、パパとりきちゃん二人だけだった。

りきちゃん、パパだよ、分かる?
っていって、りきちゃんの手をきゅっって握ったら、りきちゃんが、ちょっとニヤッと笑った。
実は、これは、すごいことである。
りきちゃんは、普段笑わないのである。だからこんなことは、滅多にないのである。いや、ほとんど無いといってもいい。あるいは、初めてかもしれない。

あのときのりきちゃんの顔、忘れない。



2004年の大晦日は、珍しく大雪だった。
その日りきちゃんは、窓の方を向いていた。
そして、パパとママと一緒に、雪が降るのを見た。
りきちゃん、雪だよ。
りきちゃんは、雪を興味深そうに見ていた。
しずかな面会だった。


そうして、2004年が終わってしまった。






2005年1月1日
近くの神社に初詣に行き、お守りを買った。
りきちゃんが早く良くなりますように、一緒に過ごせますように、ってお祈りした。

寂しい正月も今年で終わりだね。
来年は、パパとママとりきちゃんとママのお腹の子と4人で初詣に行こうね。

思えば、これまでに、来年は、今度は、次は、っていう会話はこれまで何度しただろう。
でも今度こそ、二人で過ごす正月はこれで終わりだと思った。


この日のりきちゃんは、何事も無かったかのようにいつものように可愛かった。
絵本を読んであげるとじっと見つめていた。




1月2日のりきちゃんは、熟睡だった。面会時間中、何をしても一回も起きなかった。
そういう日は、そういう日で、安心である。寝てる間は苦しくないだろうから・・・
あいかわらず、かわいい寝顔だった。



1月3日。正月休み最後の日。明日から、また仕事が終わってからしか会えない。


午前中は、赤ちゃん用品の店に行った。ママのお腹の中にいる二人目のためのものを買うためである。
りきちゃんのためになんか買ってあげるもの、ある?とママが聞く。
特にないよ、と答えた。
オモチャ買ってあげてもいいけど、病院にはそんなにいっぱい持っていけないし、退院してからいっぱい買ってあげよう。そう思っていた。
でも、これが、後々後悔することになるとは、このときは思いもよらなかった。



明日から仕事だな、今日はいっぱい遊ぼう。そう思って面会に出発。
病院には夕方4時ごろついた。

ところがなんだか、この日のりきちゃんは、明らかにいつもと違っていた。
青白かった。顔色がすごく悪い。
そして、なんかむくんでいるような感じ。

りきちゃんの体調を気遣いながら、いつものように遊ぶが、やっぱり元気が無い。
担当の先生がいれば呼んで診てもらったが、休みだった。
いずれにしても明日になれば出勤してくる。そのときにでも聞こう。


そして、いつものように遊んだ。
いつものように、写真をとった。
いつものように、ビデオも撮った。
いつものように、握手した。
いつものように、アタマをなぜた。
いつものように、足を握った。
いつものように、肩を握った。
いつものように、背中をさすった。
いつものように、オモチャであそんだ。
いつものように、ばぁーっってやった。
いつものように、いつものように、いつものように・・・

いつものように、りきちゃんがだいすきな絵本をよんであげた。
ただ珍しく、パパが読んだ。
いつものように、喜んだ。



いつものように、痰が詰まり始めた。
いつものように、ゼコゼコいいだした。
いつものように、看護婦さんを呼んだ。
いつものように、吸引が始まった。
いつものように、パパとママは少しはなれたところで見守った。
いつものように、吸引が終わろうとした。
そしていつものように、りきちゃんのところに行こうとした・・・・・



その瞬間までが、いつものように、幸せな時だった。





とつぜん、あわただしくなる看護婦さんたち。

突然始まる心臓マッサージ。
あわててやってくる当直の先生。

??

どうやら心拍が落ちたらしい。

30分ぐらいざわざわしていただろうか。でもなかなか収まらない。
ちょっと外で待っていてもらえますか。そういわれて、内科病棟から出された。
外のロビーは寒かった。


出たのは夕方6時だった。
最初の10分が、すごく長く感じた。


そのうち、担当の先生が飛んできたのが分かった。
3人ともものすごいダッシュで駆けつけてくれた。


気が付けば夜8時、面会終了の時間である。
様子を伺いに入ると、状況はあまり良くないようだった。担当の先生が説明した。

私が駆けつけた時点で、すでにVT(心臓の各部が強調せずバラバラに動くこと)でした。
強心剤や心臓マッサージを続け、いまなんとか維持しています。

ちょっと力斗くんをみますか?

---はい。


そういって見せられたものは、面会に来た時からは想像できない様子のりきちゃんだった。

全身紫色になり、その小さい胸がつぶれんばかりにマッサージされていた。
目は開いて、手や足は力が抜け、だらっとしてた。そこに意思は感じられなかった。

それを見たママは、泣き出してしまった。
パパも泣いてしまいたいところだったが、りきちゃんに悪いと思って、我慢した。


心臓から送り出す血液の量が極端に低下しています。
そういわれて、りきちゃんの足を恐る恐る触ってみた。
つめたかった。でもまだぬくもりはあった。



結局その日は家族宿泊棟に泊まることとなった。
長丁場になるということだと思うが、悲壮感は不思議と無かった。
夜11時ごろだったと思う。再び呼ばれ、病状の説明があった。
少しづつ薬に反応してきて何とかなりそうです、そういう説明だった。


また呼ばれた。
回復しました、みたいな説明だった。
りきちゃんに会った。


なんとまあ、けろっとした顔をしていた。
パパとママがきたら、こっちをチラッと見た。
いつものかわいい顔だった。

「あ、パパとママだ。え?なに?どうしたの?なんかあったの?」
そんな顔だった。

かわいいかわいい、りきちゃんの顔だった。
少しもじもじしていた。からだも動かしていた。元気だった。
いい顔だった。すごくいい顔だった。これ以上ないぐらい、さっぱりしたいい顔だった。
これまでに無いぐらい、かわいいしぐさでこちらを見た。

この時の顔は、決して忘れることは無いだろう。


とりあえず回復しましたが、このまま一晩様子を見ますので、お父さんとお母さんは、このまま待機して置いてくださいと言われた。

でも、もう大丈夫だと思った。パパはほっとして眠くなってしまった。

12時ごろだったと思う。また電話が鳴った。来てくださいと。
行ってみると、かわいい顔をして寝ているはずのりきちゃんは、紫色になって、心臓マッサージを受けていた。

なんで?
パパには一瞬理解できなかった。りきちゃん、良くなったんじゃないの?

急変しました。
強心剤も強いのを入れています。一番強いやつを、大人用の分量使っています。
電気ショックも使いました。
心臓マッサージも続けています。これをやめると心臓が止まってしまいます。ます。
もう少し、頑張らせてください。
先生はそういった。

もう少し?もう少し頑張ったら、元に戻るの?


りきちゃんは、すごく頑張っていた。
多分、心臓マッサージって、痛いだろう。
それにずっと耐えているのだ。
青白くなってまで、目が開ききってまで、それでもまだ頑張っている。

がんばれ、りきちゃん。
きっと回復するよ。きっといつものように戻るよ。
さっきみたいにまたこっち見てよ。
さっきみたいにまたもじもじしてよ。


ママはおじいちゃんとおばあちゃんに電話して、来てもらうように言った。
ママは、最悪の事態を覚悟したのだと思う。



そして夜中2時ぐらいだった。

来てください、と連絡があった。
パパは、きっとこれは戻りましたよ、っていう報告なのだろうと思った。



行って見るとさっきと何一つ変わっていなかった。
一生懸命マッサージを続ける先生たち。みんな疲れてきている。
先生が説明する。


心臓マッサージは続けていますが、これを止めるとすぐに脈がおちるような状態です。
もう薬にも反応していません。何の薬も効きません。
自発呼吸も止まっています。瞳孔も開いてしまっています。

どうされますか?








・・・どうされますか、って?
パパは、言葉が理解出来ない。

頭が真っ白になるとはこのことだろうか。



どうされますか、って、・・・そりゃ、続けてください、でしょうが!
心臓が止まるまでいつまでも続けてくれよ!!
りきちゃんが戻るまでやめるなよ!!

そう叫びたかった。

でも、りきちゃんの小さな胸は、もうつぶれそうだった。
目は開いてしまって、完全に意識は無い。
からだも冷たくなっていた。
これ以上、りきちゃんを痛い目にあわせるの?と、もう一人の自分がささやいた。
今までこんなに頑張ってきたのに、最後の最後までまだつらい目にあわせるの?
もう、いいんじゃないか・・・、もう、十分頑張ったよ…

もういいです、と言いかけたが、おじいちゃんとおばあちゃんがもうじき到着する予定だったことを思い出した。
なので、おじいちゃんとおばあちゃんが着くまで持たせてもらうことにした。


ほどなくして、おじいちゃんとおばあちゃんが来た。
何とか間に合った。よかった、とパパは少しほっとした


しばらくした後、「心臓マッサージをやめてもいいですか?」と言われた。
りきちゃんは良く頑張った。もう、いいよね。いいよね。いいよね・・・・


決して言いたくはなかった。あきらめたくは無かった。でも、覚悟を決めて、「はい」、といった。
そして、心臓マッサージは終わり、手動の呼吸器だけになった。

「最期に抱っこしますか?」
ママ、抱っこしなよ。最期だよ。ママの胸に、抱いてあげなよ。
ママはりきちゃんの顔をくっつけてすりすりした。
「りきちゃん!!!ママだよ、ママだよ」
ママは、大泣きした。


もう、りきちゃんとお別れなのか・・・
パパは、泣くまい、と思った。ぐっと我慢した。


ところが、それまで心臓マッサージをやめるとすぐに落ちていた脈はなぜかなかなか落ちない。
そのあいだが、みんなで一緒に過ごした。最後の団欒だった。


これはりきちゃんが最後に頑張ったのだと思う
ママにずっと抱っこされていたかったんだろうと思う。
パパやママは、りきちゃんをずっと抱っこしたかった。
りきちゃんも、ずっと抱っこされたかったんだね。
それがやっと叶ったんだね。
よかったね、りきちゃん。
ママの抱っこは、気持ちいいかい?
やっぱり、ママのこと分かっていたんだね。ママの抱っこは、世界一だろう?
ママに抱っこされて、それまで辛そうだった顔がだんだん安らいできたように思った。


最後にみんなで写真を撮った。これが、本当に最期の写真だった。
りきちゃんの顔は、少し和らいでいた。

そのあとパパと抱っこを交代した。
パパも、りきちゃんの顔をすりすりした。
りきちゃんを、やっとぎゅっと抱けた。顔をすりすりしたかった。
いままで出来なくてごめんね。
りきちゃん、えらいね。良く頑張ったね、りきちゃん・・・
最後は言葉にならなかった。
号泣した。


そして、りきちゃんをベッドに戻した。
脈が落ちてきた。



もういいですか?



・・・はい。




「2時30分、力斗君、逝去です。」

パパも、ママも、おじいちゃんもおばあちゃんも先生も看護婦さんも、みんな泣いた。泣いてくれた。

ただ、力ちゃんだけが笑顔だった。


りきちゃん、大好きだったよ。
いままでありがとう。
また、会おうね。バイバイ・・・






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